真に容赦のないデスゲーム!知らなくてよかった心の裏側まで暴かれる「トガビトノセンリツ」
※ネタバレへの配慮ありです
前回の更新からだいぶ時間が空いてしまいましたが、久しぶりにゲームの感想です。
いや前回のエントリもゲームの感想だけど。
風邪ひいて実時間3週間くらい放置してしまいました。
さて、今回の感想は「トガビトノセンリツ」。
タイトルや表題画像の不穏な感じから察する通り、サスペンスもののノベルゲームです。
本作はだいぶ前に紹介した「鈍色のバタフライ」を制作したケムコ発の、デスゲームもの2作目です。
「鈍色」は王道デスゲームもので、主人公たちがデスゲームの攻略に挑む、重苦しいながらもヒロイックなストーリーでした。
一方の「トガビト」はデスゲームものとしては結構異色作。
詳細は追々語っていきますが、中々他では見られないストーリー展開が楽しめます。
私はこれに近い「攻略」を見せたデスゲームものは今の所見たことがありません。
プリズナーゲーム
本作の登場人物たちが強制的にプレイさせられるゲームの名称。
参加者たちにそれぞれ「囚人」「看守」の役割と能力を与え、閉鎖空間で生活をさせるというものです。
参加者のなかに潜む「殺人鬼」を見つけて殺すことが出来れば「殺人鬼」以外の人は生還。
あるいは「殺人鬼」が「看守」を全滅させることができたら、「殺人鬼」を含む「囚人」全員が生還、というルール。
劇中でも触れられているとおり、実際に行われた心理学実験をベースにしている模様。
「ES」というタイトルでサスペンス映画にもなっています。
吹き替え版は主役の一人がCV平田広明で、それがカッコイイのでおすすめ…と思ったらそれはテレ東版だけで、ソフト版は森川智之でした。
ソフト版は見てないのでノーコメント。
ゲームには複数の役割があり、各々がそのルールに従って行動することになります。
看守
一日に一人、囚人を「処刑(殺す)」か「釈放(ゲームから開放)」させることができる。
「殺人鬼」を処刑すれば、その時点で生きている全員が生還でき、逆に「殺人鬼」を釈放してしまうと、参加者全員がゲームオーバー(死亡)。
殺人鬼
本作のキーマン。一日に一人、看守を殺すことができる。
ただし殺人鬼が敗北すると、その場で全員の生還が決定される。
無実の罪
本当に無実の罪とされる囚人。能力も制限もなし。
革命家
この囚人が死亡したとき、看守と囚人全員を入れ替える。
脱獄囚
条件を満たせばルールに関係なく釈放される。
詐欺師
他人に対して嘘しか言ってはいけない
死刑囚
無条件で敗北するハズレ役。ゲーム開始時に死亡事例として殺される。
ちょっと情報量が多いですが、ポイントは
・看守は生活の中で囚人の能力を推察しながら、一日一人処刑することで殺人鬼を殺すことを狙う
・囚人は殺人鬼が看守をすべて殺すか、看守が殺人鬼を見抜いて殺すことを期待するしかできない。
・殺人鬼は看守と囚人から正体を隠しながら、看守をすべて殺すしかない。
ちゃんと見るとこのゲーム、非常にゲームバランスが「悪く」デザインされています。
看守は能動的に勝利を目指すことができます、
囚人は何もできません。
殺人鬼は唯一、自発的に勝利を目指すことができますが、看守も囚人も味方になってはくれません。
というゲームバランスの破綻は、劇中でも言及されますが意図的に行われており、それらはすべて「参加者を疑心暗鬼等に追い込み殺し合いをさせるため」という目的が用意されています。
すでに仲のいいグループに殺人を犯させるために、時限式で最低でも一日一人は死ぬルールを持ち込み、それを理由に殺し合いを進めさせようということですね。
登場人物
本作の登場人物は、とある学校に通う「管弦部」の一団です。
彼等がとある山荘へ合宿に向かうところから、本作は始まります。
彼らは各々、学校の教室内ではまともな居場所を作れなかった「ひとくせある」人物で、それらを集めて無理やり部活動としたのが管弦部。
なぜそんな経緯で部活が作られたのかは、ちゃんと本編で語られます。
竹井和馬
本作主人公。こういうのには珍しく、不良風のキャラです。
ゲーム中では一枚のイベントスチルにちらっと頭が映るだけで、キャラビジュアル自体はほとんど出てきません。
ネタバレ記述の方に書きますが、デスゲームものの主人公としては非常に珍しい精神性を持っています。
雪村みこと
和馬の同級生。学校一の高嶺の花。でもちょいちょい変な人。
和馬のことが好き。メンバーのなかでは常識人サイド。
城本征史郎
和馬の中学からの悪友。非常にクレバーで、ゲーム中でもブレイン役として大活躍。
一方他人をいじることにも非常に熱心。和馬をからかっては仕返しにまずいコーヒーを飲まされたりする。
彼もデスゲームもののキャラとしては非常に珍しい考え方で動きます。
井之上亮也
学校一のイケメン。ファンクラブが存在するレベル。
いつも控えめで一歩引いた位置にいます。
西城彩音
唯一の三年生。トップクラスの変人。
しかし音楽的才能は図抜けており、「管弦部」は彼女のためだけにあるといって過言ではない。
向島七緒
クールで頭脳派な一年生。
常識人を気取って上級生に文句をつけるとケツにカンチョーを食らう。
萩尾エレナ
見た目通りのアホなギャル。一年生。
地元ギャルのボス的存在。
雄鹿原蓮
和馬の後輩。
BLを嗜む女子。何故かケムコ性のゲームにはよくそういうキャラが登場する。
和馬のことが好きなもよう。
雄鹿原悠
蓮の弟。小学生だが、姉について今回の合宿に参加。
並坂千鶴
「管弦部」の顧問。
学校の問題児である登場人物たちを集めこの部活を作った人。
鳩田くるみ
唯一完全な部外者。小学生。
合宿場に向かう途中で迷っていたところを助けられ、そのままゲームに参加させられる。
ということで「鈍色」でもそうでしたが、本作はデスゲームを通して「仲の良いメンバーたち」が「殺し合い」をさせられることが趣旨となるわけです。
感想(ネタバレなし)
ひとまず未プレイでも読んで大丈夫そうな感想から。
まずなんといっても、いつ誰が死ぬかわからないハラハラ感。
デスゲームものの基本にして王道でしょう。
「鈍色」でもそうでしたが、デスゲームだけあって登場人物たちは死にます。容赦なく。
これで「主人公はじめ明らかにメイン感のあるキャラ」は死なないとかなら興ざめもいいところですが「トガビト」は違うんですよ!
基本的にケムコのゲームはストーリーは一本筋、途中の選択肢はそれぞれ異なるバッドエンドに通じてるだけ、というわかりやすい構造をしており、一応それぞれで結果は異なります。
全滅する展開もあれば、被害を小さく抑える展開もありますが、それらはメインルートではなく、謎も残されたまま。
なので、メインルートを基本として感想を書くことになりますが、まぁ死ぬ。死にます。
極限の状況下において、主人公和馬の目線を通して部員たちの見えていなかった面、逆に見えていた面が際立って強調されたり、ということを繰り返していくわけですが、そうしてキャラクターに愛着と「生き残って欲しい」という思いが浮かぶようになったあたりで死んだりします。
もちろんそうなる前に死ぬキャラクターもいます。上記した囚人の中の「死刑囚」はゲーム開始時に殺されますし。
読み進めていくたびに誰かが死んだり、人間関係が変わっていったり、思わぬ事態が起きたり。
流れ上こいつは死なないだろ…という予想は何の役にも立ちません。
このハラハラ感は間違いなく秀逸です。
魅力的なキャラクターを守らない、という捨て身にも見えるストーリー構築が、この作品のスリルを際立たせています。
そして「執行人」の存在。
この不気味な防護服はゲームの主催側の人間です。
「看守」が処刑を執行したり、ルール違反が起きると彼等がやってきて、対象を処刑するわけです。
この辺は人によるのかもしれないけど、私はこのマスクがすごい生理的に怖くて大変でした。
ちなみに本作「グロ描写」はそこまでではないです。
全くもって血が出る描写は無理!って人には厳しいでしょうが、スプラッタを期待して読む作品ではないでしょう。
死体のイラストも出てこないし、死体の損壊ぶりが克明に描写されるシーンも1,2個あるくらいです。
それでも一応グロい部分を「×××××がどうのこうの」と「×」でマスクする機能もついていますが、余計に怖く見える可能性もある。
あとはやっぱり、人間関係でしょう。
仲の良いメンバーである管弦部の、デスゲームを通して本来見えない、見えなくても良かった面が暴かれていきます。
それは人に見せたくない汚い面であったり、あるいは篤い信頼であったり。
見た目からは想像もつかないものが突然飛び出てきたり。
「ゲーム」を通して彼等の人間関係は徹底的にぐちゃぐちゃになり、元には戻れないところまで変異させられます。
その取り返しのつかない変化が、また良い。
登場人物の命と同じくらい、失ってしまったらもう手に入らないものがたくさん消えていきます。
温かいものが冷たくなっていく様と、その中で確かに残る温かいもの。
そんな気持ちの乱高下を味わえる作品は、世の中に意外と少ないものですね。
そして本作の特徴的なシステムである「隠しモード」。
本作一周目は正直、ちょっと打ち切り漫画みたいな展開で終わります。
謎も多く残っており、それは和馬という主人公の一人称でのみ物語が語られるため。
その一周目をクリアすると、和馬以外の目線からの物語が解禁される「隠しモード」が開かれます。
本編テキストにちょいちょい、赤いウインドウで和馬以外の目線から謎が語られるようになります。
こんな感じで、登場人物たちの見えざる本心が明かされるようになります。
本作には既読スキップ機能があるので、ソレを使えば未読の隠し部分のみ読み進めるのも簡単です。
上で挙げたシーンなどは軽い方で、例えば和馬目線では見えない「殺人鬼」による殺害シーンや、黒幕がどこでどんなことを考えながらゲームを進行させていたか、さらには一周目のラストシーンの先などが明らかになり、この「隠しモード」まで読んで初めて完結といえるものです。
おまけ、というよりは真相編という感じ。
この二段構成のおかげで、読み応えも結構大きくなっております。
隠しモードを楽しむためにも、内容の細かい部分を忘れないうちに一気読みすることをおすすめします。
というわけで「トガビトノセンリツ」でした。
スマートフォン向けとして本編500円、追加エピソードもそれぞれ100円ちょいで配信中です。
さらに全くのパラレルとして「デスゲームに巻き込まれなかったIF」編も配信中。
こっちは素直に学園ラブコメみたいなストーリーが楽しめます。
追加エピソードはいずれもクリア後向け。
ネタバレを含むことになるのであんま具体的な感想は書けないのですが、和馬のデスゲームに対する「攻略法」は中々ユニークで面白いものです。
その攻略法がどういう流れを生み、どこに決着するかぜひ読んでみてください。
ネタバレレビューは後日、この下にでも追記します。
というわけでネタバレ部分。
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まさかデスゲームに敗北して終わるデスゲームものがあるとは思わなかった。
和馬目線では、釈放に成功したくるみ以外全員死んでるんですよねこれ。
例外的に生き残った蓮にも会えるのは数年後だし。
和馬の言葉が黒幕の考え方を翻意させるわけではなく、死に染まった人生を悔いさせるでもなく、満足した黒幕が自分の手で幕を閉じて終わり。
そういう視点で考えると、黒幕とひたすら戦い続けるエンドというのは、着地点としては納得がいくかも。
親も居場所(管弦部)もなくした和馬は、とくに生きて帰ってもいいことないんですね。
個人的には、和馬が言っていた「大事な仲間同士で殺しあうくらいなら、時間切れを待って全員で死のう」って回答が超好きです。
本当にこの選択肢を取ったらゲームにならないのはわかってるけど、このルートも見たかった。
別にゲームに乗っかってもいい征史郎と合わせて、この二人が「トガビト」を「トガビト」たらしめている、って感じですね。
貴重な体験だし、適当にゲームを楽しんでさっさとクリアーしよう、って普通登場人物に言わせねえよ!
その征史郎が好きな女の子に殺されるエンドを迎えるというのは、また皮肉なものですが。
革命家によるリセット後の役割交換は確か処刑人が勝手にやってた気がするし、この辺は黒幕の狙いなのかなあ。
総じて本作は「デスゲームもの」というより「デスゲームを通した人間ドラマ」を楽しむ作品、って感じでしたね。
初日に殺人鬼が誰なのかわかったり(やっててすげえ驚いたこの展開)、処刑による殺人が劇中二度(ルートによってはもっとあるけど)しかなかったり、とプリズナーゲームそのものの攻略は全くしてません。
ルールに穴があってそこから黒幕を追い込んだり、とか謎の第三者が現れて主人公を助けてくれたり、ということは一切起きない。
そこよりは「仲の良い面々の知らない顔が、卑劣なゲームによって暴き出される」というのが美味しいポイントですね。
みことはまさにそれを体現したキャラクターで、そういう意味ではコンセプトに添いきった正ヒロインと言えそう。
まぁ「空が晴れていた場合」じゃあっさり解消されるけど、あれを前提に語るのは可哀想でしょう。
あとは亮也ですかね。
人当たりのいい穏やかなイケメンが内心では…っていうのはベタもベタではありますが。
和馬が理想論で動く一方、彼は「みことを生き残らせるため」暗躍するという、ある意味正しいゲーム攻略に挑みます。
その結果があれですけど…。
取り返しのつかないことをした後に革命家で囚人に落ちる、というのはすごいいやらしい展開ですね。このゲームいやらしい展開ばっかだな。
こういうゲームをやってると、どうしても違う選択肢を取ったときの展開を読みたくなりますね。
ケムコのゲームは基本的にマルチエンドを取らないですが、レイジングループくらいのシステムとテキスト量、分岐で改めて「トガビト」を読んでみたい…。
惜しいのは3人しか生き残ってないので、実質続編が出来ないということでしょうかね。
「DMLC」や「レイジングループ」は続編作りやすそうだけど、メインキャラあらかた死んじゃったからなー。
和馬と黒幕の第二戦以降をゲーム化とか出来ないでしょうか。
そこでも敗北確定してるわけですけど…。
あとは和馬と征史郎の中学時代のエピソードもっと見たいですね。
あの二人はゲーム中でもすげえ美味しいカップリングだったので、ちょっとした会話シーンいくつか見れるだけでも捗りそう。
最後に一番好きなシーン貼って今回の感想はおしまい。
あーこの二人もっと見ていたかったなー!なーエレナなー!