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鈍色のバタフライ

2015/03/01


今日は久しぶりにスマートフォン向けゲームの感想です。
といっても元はガラケー用のノベルゲームなのですが、今回紹介するのはその移植版。

ノベルゲームという題材の都合上ネタバレは記事の後半に伏せておきますので、プレイしてみようかなと思われる方は前半だけ読んでみてください。
ネタバレ部分は注意書き入れます。

さて、鈍色のバタフライはいわゆる「デスゲーム」を取り扱ったノベルゲーム。
デスゲームとは「本物の殺し合い」を強要するようなルールのもとで行われるゲームのことで、メジャーどころだとダンガンロンパとかですかね。

クローズドサークルに閉じ込められた主人公たちは、何者かの主導のもと殺し合いのゲームをさせられることになります。
もちろん抵抗するような余地は残されておらず、ルールを破ったり参加を拒絶したりすると殺されてしまいます。
あくまで相手は人間なので、ホラーというよりはサスペンスですね。

主人公たちが強制的に参加させられるのは「バタフライゲーム」と呼ばれるもの。
登場人物それぞれに役割がランダムに割り当てられており、
参加者は誰がどの役割なのかを推察しながら、ゲームクリアの鍵となる「首謀者」を見つける。

ルールはざっとこんな感じ。
・プレイヤーには全員に特殊な能力を持った役割が与えられる。
・「首謀者」は毎晩一人を任意に殺すことができる。
・「首謀者」を告発できればその時点での生き残りは全員解放される。
・期限までに他のプレイヤーを全滅させられないと「首謀者」が死亡。
・告発に失敗すれば告発したプレイヤーは死亡。

プレイヤーの中には「首謀者」から狙われても助かる能力だったり、一人だけ誰がどの能力者か見抜けたりと色々な能力を持っており、上手く組み合わせることができれば「首謀者」を封殺できたりと能力は多様。

ただし互いのプレイヤーは誰がどの能力者かはわからず、自分から能力をばらすことは出来ても証明はできない。
(能力を使うには鍵を閉めた個室に閉じこもる必要がある)

上手く他人と連携することができればゲームを有利に進められるものの、大半の能力はゲーム中一度しか使えない上に、果たして協力を持ちかけた相手は信用していいのか、実は「首謀者」が嘘を付いているだけなのでは…などと、プレイヤーの間に疑心暗鬼を産むようにできています。

ここで重要なのが、登場人物全員が仲良しグループで構成されているということ。
「首謀者」になってしまった人は、誰かを殺さないと自分の命が危機に晒されることになります。
ましてや「首謀者」は「自分以外全員が生還するための鍵」のため、仲間の誰かが裏切って自分を告発しようとするのでは…と追い詰められていく。

一方「首謀者」以外のプレイヤーは、いつ自分が「首謀者」に狙われるかわからないまま、どうやって「首謀者」を見つけるのか、見つけたとして告発=殺すことができるのか、と追い詰められていく。

圧倒的な能力を与えられた一人と、それに抗わないと毎日死の危険が高まる八人、という構図からスタートして、仲良しグループだったはずの主人公たちは少しずつ人間関係を歪ませていくのです。

というとちょっと鬱々しすぎる感じにも読み取れますが、実際読んでいて落ち込むようなことはそうそう無く。
目の前に配置される情報や謎、登場人物の側面。
それらが果たして本物なのか、嘘なのかを頭のなかで疑いながら読み進めていくのは、とても楽しいです。

登場人物全員が既知の関係だけあって、基本的には互いが互いを信頼しあっています。
それだけにそれが崩れる展開は惹かれるものがありますし、人間関係が変わってしまったらそれもまたショッキング。

本作の登場人物はみんな「性格が一転する全く別の顔」とかがいかにもありそうな、「あざとい」キャラクターデザインをしているんですよ!
爽やかな笑顔だったり、軽薄な態度だったり、仲間思いだったり、そういうのがぐるっと一転して狂気全開、なんて展開がいかにもありそうな!

バタフライゲームはそういう、普通に生活してたら知らなかっただろうし、知らないままでよかった他人の一面を無理やり見せつけるゲーム。
仲間を信じたいのに信じられなくなったり、普段はあんなキャラなのにこんな顔もあったのか、なんてことも。

もちろんデスゲームである以上、話を進めれば登場人物たちは死んでいきます。
自分のお気に入りのキャラが死ぬかもしれないし、もしかしたらそいつは「首謀者」かもしれない。

この手のゲームでは「こういうキャラは死なないだろ…」って奴も容赦なく死にますので、
最後の最後まで緊張の糸が途切れない読み応えのあるノベルゲームとなっております。

大体通してプレイして5時間はかからなかったと思います。
途中選択肢は出てきますが、間違った方を選ぶとバッドエンド、正しい方を選ぶと続くというシンプルな構成。

そう、鈍色のバタフライはマルチエンドではありません。
その分サクッとクリアできたり、クリア後は裏モードが解禁されたりと話の厚みそのものは充分です。

ちょっと気になった点としては、メインキャラ全員が既知の仲って設定ゆえに、ゲーム開始早々いきなり9人全員揃った状態で話が始まること。
覚えきれねーよ!

ゲームだから顔はすぐ覚えられるけど、キャラクターによって名前で呼ばれるキャラと苗字で呼ばれるキャラがいて、更にそれぞれにゲーム上割り振られた役割があるものだから全員覚えるまで結構大変でした。

また、元はガラケー用と古いゲームのため、キャラデザもちょっと古いです。

もう一つ、媒体ゆえの制限でしょうがスプラッタな絵は一枚もありません。
殺されそうになっている絵や出血シーンのある絵はあるのですが。
そもそも本作の殺しは基本的に「毒」のため、死体の損壊はほぼありません。
グロ期待で遊ぶゲームではないというお話。

ではここからはネタバレも含めた話を。

ネタバレはここから

まずはド直球ですが「首謀者」のことから。
このバタフライゲームの(登場人物たちから見た)キーポイントは「俺達は仲間同士のはずなのに、なんで簡単に人を殺せてしまうんだ」という点にあります。

前述のとおり登場人物たちは全員仲良しのグループ。
いくら変なゲームに連れ込まれたからといって、そうそう簡単には瓦解しない。
そういう認識が彼らの中にはありました。

それが初日にして一人殺されることで崩れる。

さてどれだけの犯人なのだろう、と思っていたのですが、まさかの「首謀者」黒幕側展開。

「首謀者」はこのゲームがどういうもので、過去何度も行われており、殺すときは本当に死ぬゲームだと知っていて、かつ楽しんでいます。
加えて主人公たちのことを実は気に入らないと思っていたために容赦なく仲間を手にかけていくわけなのですが、これはなんというか、ゲームとしてプレイヤーが読んでいくことを考えると若干のルール違反ではないだろうかと思ってしまいました。

作中主人公は何度も「なんで殺せるんだ」「なぜ裏切る」と苦悩するのですが、だって黒幕側だもん、というのはプレイヤーの期待の直線上に置いてはいけない回答だと思う。

このゲームは「全員が巻き込まれた」というのが前提のため、
・ゲームを企画した黒幕と、劇中人を殺していった「首謀者」は別
・「首謀者」もデスゲーム被害者の一人でしかない
というのが劇中のキャラクターたちの思考の軸なのですが、結果として黒幕と「首謀者」は同一人物ではなくても、同じ側の人。

倒すべき敵がひとところに固まっているという点ではフォーカスが絞れてわかりやすいのですが、できれば「首謀者」は黒幕側とは異なる人物で居て欲しかった。

みんなで仲良くしていたのに、こんなゲームのせいで人間のこんな面が引きずり出されてしまった、みたいな。
そういう展開だと思うじゃんよ!

この「首謀者」にたどり着くまでの展開もちょっと拍子抜けで、レイが命をかけて選択肢を減らしたのに、主人公の最後の選択はほぼ勘。
せっかくこれまでいろんな人が主人公のために頑張ってくれたのだから、それら全てを繋ぎあわせて「首謀者」を告発する展開が欲しかったところです。

というとあまりよろしくないオチだったのだなと思われそうですが、この話の一番のヤマ場はこの後。
黒幕と対峙する画面です。

そもそもバタフライゲームがなぜ開催されていたのか、過去何度も行っていたのになぜ隠匿されてきたのか、そういったゲームそのものに対しての回答が為されます。

黒幕の目的はヒューマンスケールながら結構な外道っぷりで、このクソ野郎!と思うこと請け合い。
その被害者の中に主人公の死んだ妹まで含まれていたのだから、ここは「首謀者」の告発よりも盛り上がる展開。

そして、死んだはずのレイの生還!
劇中「隠匿者」の持つアイテムは薬と毒ひとつずつ、と念を押されていたため、両方薬だったというどんでん返しは結構お気に入りです。

本当に主人公と壊れちゃった璃々子以外全員死んでたら辛すぎるしね…。

黒幕も内通者も含め、毒を投与された登場人物全員に薬が投与され、
生きて戻れるかは神のみぞ知る、という展開も私好みでした。
案の定黒幕は死ぬものの、主人公が黒幕に助かる可能性を提示するのが甘ちゃんながらも主人公してて好きなのです。

すなわち肝心のバタフライゲームそのもののシメとしてはちょっと落ちる部分があるものの、ストーリー全体の帰結としては満足のいくものでした。

もう一つ、これは惜しいというか、もうちょい見せてくれよというポイント。
実の妹であることが判明したレイと主人公の関係をもっと見たかった!

言葉上多少濁してはいるけど、レイが兄を性的な意味で男として好きなのは確定で、そこまで見せてそこまでで終わりは無いでしょ!
一緒に暮らすようになってどうの、とか!
冗談めかしつつ本気のアプローチを兄にかけるとか!
心の中で桜に謝りながらもボディタッチしたりとか!

ゲームのジャンル変わるわ。

でも桜のくだりでおぉ恋愛要素あるのかと思ったので、その翌日に桜が死んでいたくだりは結構ショックでした。

キービジュアルのメインはレイだけど、彼女は彼女で秘密を持ってたので、そこがストーリーの軸になるのかなと思えば、桜エンド自体はアリだった。
お互い好きだって言ってキスまでした翌朝死んでたのはえげつなかったなあ…。

桜自身は最後まで生きる気で、気持ちをしたためた手紙まで書いてたのに、「首謀者」にそれを読まれながら殺されるというのがもう本当えぐい。
グロがない分精神的に重いのが来るよね。
裕二も結構な難題を押し付けられたあげくの死でしたが、あいつ生き返ったしな。

ということで一番印象に残ったのは桜の死でした。
裕二と同日というのがまたね…。

読み進めていって、レイとこいつらが「首謀者」は無いな、と思ってたら三人立て続けに三人とも死んでめっちゃびっくりした。

デスゲームもので蘇生という展開はちょっとずるい気もしますが、そういう展開が見込めること自体はゲームのルールにも仕込まれていて。
ここは素直に上手いなと思いました。

以上、ネタバレ終わり。

また本作には2週目専用の裏モードがあり、それをONにしておくとストーリー中語られなかった、主人公以外のキャラクターの内面が見られるようになります。

というかこの裏モードまで読んで完結、という感じで、裏モードを読まないとあの時何があったのか、なぜあんな展開があったのか、といくつか不明なまま終わってしまいます。

本作は未読スキップが無いので、2週目は基本スキップしながら裏モードで解禁されたテキスト部分だけを読むことができます。

これが結構なテキスト量で、あの時から「首謀者」はこんなこと考えてたのか、とか、こいつ影でこんなことしてたのか、という色々を楽しむことができます。

このシステムは他のノベルゲームでもやって欲しいくらい魅力的でした。

題材が題材だけにこういうの苦手だ、っていう人もいるかもしれませんが、スマホゲームだけあってプレイへの敷居は低く、電車での移動中とかトイレなどの短い時間でもちょくちょく読み進められます。
途中までは無料で読めますので、ぜひ試してみてください。

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